最近2頭の赤ちゃんザルを抱いて子育てしている「マツバ」が注目されていますので、これまでのマツバを振り返ってみたいと思います。
B群に「マツバ」という母ザルがいます。推定で19歳になるマツバですが、現在は迷子だった赤ちゃんザルと自分の赤ちゃんザルの2頭を抱えて子育てに奮闘しています。
ニホンザルの小さな体で2頭の赤ちゃんを抱えて歩くだけでも体力的には大変な事です。そのためかもしれませんが、ニホンザルは通常自分の子どもしか育てようとしません。それは自分の子どもが分かるという事でもあります。めったに他人の子を育てることはないのです。そして、通常1頭しか育てることのないニホンザルが2頭を同時に育てるということは、母ザルの体力や母乳の出具合、そして赤ちゃんザルの生命力が要求されます。これまでにも、2頭を抱いて育てようとした母ザルが1頭しか育たない、あるいは2頭とも亡くなるということの方が多いのです。
しかし、今年の6月29日に迷子の赤ちゃんザルがいました。母ザルとはぐれ、必死に母をさがしていました。赤ちゃんザルが母親とはぐれると、早ければ1日もたたずに体力がなくなり死んでしまいます。赤ちゃんも私たちも母親をさがしていましたが、結局その日はB群のサルたちとともに迷子の赤ちゃんザルは山へ引き上げていったのです。
次の日、マツバの胸に2頭の赤ちゃんザルが抱かれていました。マツバは5月31日に自身の赤ちゃんを1頭産んでいました。しかし、2頭を抱いているということは、きっと前日迷子になっていた赤ちゃんザルに違いありません。
それから、マツバの2頭の赤ちゃんザルの子育てがはじまりました。お腹に1頭、背中に1頭を抱えて歩くマツバ、どちらも同じように分け隔てなく育てる様子は、自分の子どもも迷子の子どもも関係なく等しく自分の子どもとしてしっかりと育てていくという意思の強さが感じられました。
現在でも2頭の赤ちゃんザルを抱いています。
この母親のマツバですが、2018年に生んだ赤ちゃんザルには奇跡が起きました。現在3才になるこの子を「ミラクル」と名付けています。
ミラクルは生まれて3ヵ月ほど経った頃、下半身不随になってしまいました。腕だけでほふく前進をするように歩いていました。このように小さい頃に下半身不随になってしまう赤ちゃんザルも稀にいます。しかし、赤ちゃんザルがこうなると長くは生きてはいけません。下半身をひきずりながら歩き、体力が衰え、いつの間にかサル寄せ場で見ることができなくなります。
しかし、母親のマツバは、この下半身不随のミラクルをしっかりと背中に乗せ、毎日のようにサル寄せ場に姿を見せ、ミラクルもサル寄せ場で下半身は使えないながらも、みんなと同じように一生懸命餌を拾って食べていました。
「この子もそう長くは生きられないのだろうな。」と思っていた私たちですが、いつしか、ミラクルの姿を探すことが難しくなっていました。
ミラクルの足は少しずつ回復し、4本の脚で歩けるほどになっていたのです。奇跡としか例えようのないこの出来事から、私たちは「ミラクル」と命名し、このミラクルは現在でも母親マツバと2頭の赤ちゃんザルの傍らで、赤ちゃんたちのお姉さんザルとして優しく見守っています。
奇跡を起こした「マツバ」。今回もきっと奇跡を起こし、しっかりと2頭の赤ちゃんを育ててくれることと願っています。